職種解説2026-07-23監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

工場の人事・労務事務というキャリア―『人を動かす』専門性(東海版)

この記事の要点

「うちの工場、人事担当って結局総務と同じことしてますよね?」——先日、東海地方のある部品メーカーで人事労務を担当している方に、そう聞かれたことがあります。

結論から言うと、僕は総務事務と人事労務事務は業務の重心が違うと考えています。総務は施設・備品・庶務など会社全体の「箱」を管理する仕事で、人事労務は採用から退職までの「人」の動きを管理する仕事です。特に製造業の工場では、シフト・勤怠・安全衛生・外国人労働者対応といった、現場と直結する固有の業務が積み重なっており、これが専門性として評価される流れが東海地方で強まっていると感じています。今日はこの職種を分解して整理してみます。

0. 「人事労務」と「総務」は何が違うのか

求人票を見ていると、「総務・人事」とひとまとめに書かれているケースが今でも多いです。ただ実際の業務を分解すると、総務は庶務・施設管理・備品管理・来客対応など会社の運営基盤を支える仕事で、人事労務は採用計画・入退社手続き・勤怠管理・給与連携・安全衛生委員会の運営・労使トラブルの一次対応といった、従業員一人ひとりの雇用に関わる仕事です。両者は隣接していますが、扱う対象が「モノ・場」か「ヒト」かで軸が違います。僕の体感値で言うと、従業員数が100名を超える工場になると、この二つは分業される傾向が強くなります。逆に50名未満の事業所では兼務が一般的で、求人票上は「総務人事」という一つの枠で募集されることが多いです。この構造を理解しておくと、自分がどちらの経験を積んできたのかを面接で正確に説明できるようになります。ちなみに、僕がこれまで見てきた求人票の中には「総務人事」という肩書きのまま、実際の業務内容欄には労務管理の専門用語がずらりと並んでいるものもありました。肩書きと実務の中身がずれていることは珍しくないので、応募前に業務内容欄を丁寧に読み込むことをお勧めします。

1. 工場の人事労務事務、具体的に何をしているのか

製造業の工場における人事労務事務の業務範囲は、一般的な本社人事よりも現場に近いところにあります。代表的なものを整理すると、まず採用業務では製造ラインの求人票作成・面接調整・入社手続きがあります。次に勤怠管理では、交替勤務・深夜勤務・休日出勤が多い工場特有のシフト表と勤怠システムの突合作業が発生します。さらに安全衛生では、健康診断の受診管理、労働安全衛生法に基づく安全衛生委員会の議事運営、作業環境測定の記録管理といった、法令順守に直結する事務があります。ここに加えて、東海地方の工場では外国人技能実習生や特定技能人材の在留資格管理、住居手配、多言語での就業規則説明といった業務が発生する事業所が少なくありません。僕が以前伺った豊田市近郊の部品メーカーでは、人事労務担当の方が技能実習生数十名分のシフト調整と生活サポートを一手に担っていて、「総務の延長線上の仕事だと思って入社したら、実際は労働法と多文化対応の両方が必要な専門職だった」と話していたのが印象に残っています。この幅の広さこそが、工場の人事労務事務の専門性だと考えています。

2. 東海で需要が増えている背景

なぜ今、東海地方でこの職種の求人が増えているのか。背景の一つは、製造業における外国人労働者の受け入れが進んでいることです。厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況の公表資料でも、愛知県は製造業を中心に外国人労働者数が全国でも上位クラスの県として位置づけられています。技能実習・特定技能・技術人文知識国際業務など在留資格の種類も増え、それぞれ手続きや管理方法が異なるため、専門的に対応できる人事労務担当の必要性が高まっています。もう一つの背景は、多能工化と人手不足への対応です。一人の作業者が複数工程を担当する多能工化が進む工場では、スキルマップの管理や配置調整が労務管理と直結するため、単純な勤怠打刻の管理だけでは業務が成立しなくなっています。さらに、働き方改革関連法による労働時間管理の厳格化も、記録の正確性を担保する事務の重要性を後押ししています。個人的には、この三つの要因が重なったことで、東海の製造業における人事労務事務は「庶務の一部」から「独立した専門機能」へと位置づけが変わりつつある段階にあると見ています。

3. 求人・年収の目安(比較+定義)

数字を出すときは、何を数えているかと何と比べているかをセットで示すべきだと考えています。以下は東海地方の求人情報を独自に定点観察している範囲でのおおまかな目安値で、統計調査の結果ではありません。あくまで職種間の相対感をつかむための参考としてご覧ください。

職種未経験からの入りやすさ年収目安(独自ガイド)専任化の傾向
総務・人事兼務比較的入りやすい300万〜380万円程度従業員100名未満は兼務のまま
人事労務事務(専任)実務経験2〜3年目安で専任求人が増える340万〜430万円程度従業員100名超で分業される傾向
生産管理事務未経験可の求人も一定数あり330万〜420万円程度拠点規模に関わらず専任が多い

この比較から言えるのは、人事労務事務は「未経験からすぐ専任」というより、総務や庶務での実務を土台にして専任求人へ移っていくキャリアパスが中心だということです。ここは生産管理事務のように未経験可求人が最初から一定数存在する職種とは、入り方の設計が少し異なる点だと考えています。

ケース比較:50名規模と300名規模の工場では業務の広がり方が違う

同じ「人事労務事務」という肩書きでも、事業所の規模によって業務の実態はかなり変わります。従業員50名規模の工場では、一人の担当者が採用から勤怠、安全衛生、社会保険手続きまでを一通り担うことが多く、良く言えば「幅広い経験が積める」、悪く言えば「専門性が分散しやすい」環境です。一方で従業員300名規模の工場になると、採用担当・労務担当・安全衛生担当が分かれ、外国人従業員の対応窓口が独立して設置されているケースも見かけます。僕の体感値では、キャリアの最初の3年は幅広く経験できる50名規模の環境で土台を作り、その後300名規模の専任ポジションへ転職して専門性を深める、という順番がわりと合理的だと感じています。逆に最初から専任ポジションに入ると、業務は深まりますが視野が狭くなりやすいという声も聞くので、どちらが良いかは一概には言えません。

4. 未経験から目指すルートと必要スキル

未経験からこの職種を目指す場合、最初の入口は「総務人事」として一括募集されている求人になることが多いです。ここでまず身につけたいのは、勤怠管理システムの操作経験、労働基準法の基本的な理解(法定労働時間・休憩・休日の原則)、そして給与部門との連携の流れです。人間力の軸で言うと、就業規則の説明や労使トラブルの一次対応では、相手の状況を丁寧に聞き取る姿勢が求められます。職種経験の軸では、シフト表の作成・突合作業や、社会保険の資格取得届・喪失届の実務経験があると、書類選考での説得力が増すと考えています。技術スキルの軸では、勤怠管理システムや給与システムの操作経験、Excelでの人員配置表の作成スキルが実務上役立ちます。資格については、社会保険労務士や衛生管理者の資格が必須というわけではありませんが、学習経験があること自体が「労務の基礎知識に対する姿勢」として評価される場面があると感じています。個人的には、資格の有無よりも「外国人労働者対応をどう乗り越えたか」「多能工化に伴う配置調整をどう進めたか」といった、固有の経験を具体的に語れることの方が、面接では強い武器になると考えています。

5. 実務手順:今日から始める3つのアクション

ここまでの整理を踏まえて、今日から動けるアクションを3つ挙げます。1つ目は所要時間30分程度のアクションで、これまでの総務・庶務経験を「人事労務」の語彙に翻訳する作業です。勤怠集計や入退社手続きの経験があれば、それを職務経歴書に「労務管理実務」として明記してみてください。2つ目は所要時間1時間程度のアクションで、求人票の読み方を変えることです。「総務・人事」とまとめて書かれている求人でも、業務内容欄に「勤怠管理」「安全衛生委員会運営」「外国人従業員対応」といった記述があれば、その事業所では実質的に人事労務が専門化している可能性が高いと考えられます。気になる求人を5件ほどピックアップして、業務内容欄を比較してみると傾向が見えてきます。3つ目は所要時間1〜2時間程度のアクションで、面接で聞かれそうな質問を想定しておくことです。「労働基準法上のポイントで気をつけていたことは?」「外国人従業員とのコミュニケーションで工夫した点は?」といった質問に、抽象論ではなく具体的な場面で答えられるように、エピソードを3つほど書き出しておくと良いと思います。

よくある失敗と対処

ここで、実際によく見かける失敗パターンにも触れておきます。一つ目は、総務との違いを説明できずに「何でも屋」として面接官に受け止められてしまうケースです。対処としては、自分の業務の中で「人に関する意思決定」に関わった部分を切り出して語ることが有効だと考えています。二つ目は、外国人労働者対応の経験を「大変だった」という感情面だけで語ってしまい、実務としての専門性が伝わらないケースです。対処としては、在留資格の種類ごとの手続きの違いや、多言語での就業規則説明をどう工夫したかという、手順に落とし込んだ説明を準備するのが良いと思います。三つ目は、資格の有無に必要以上にこだわってしまい、実務経験の言語化が後回しになるケースです。個人的には、資格はあくまで補強材料であって、実務での意思決定経験の方が選考では重視されると考えています。四つ目として、規模の異なる工場を比較せずに応募してしまい、入社後に「思っていた業務の幅と違った」というギャップを感じるケースもよく耳にします。事前に従業員規模と分業の有無を確認しておくだけで、このギャップはかなり減らせると思います。

(結論)

工場の人事労務事務は、総務の延長にあるようでいて、実際には「人をどう動かすか」という独立した専門性を持つ仕事だと僕は考えています。東海地方では外国人労働者の受け入れや多能工化の進展を背景に、この専門性への需要が静かに高まっている段階にあると感じています。未経験からの入口は総務兼務からが中心ですが、勤怠管理・労務手続き・現場対応の経験を具体的に言語化できれば、専任のポジションへの道は決して遠くないと思います。皆さんいかがでしたでしょうか。ご自身の経験を一度、人事労務の語彙で整理してみるところから始めてみてください。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 工場の人事労務事務と総務事務は何が違いますか

総務は施設管理や庶務全般を広く担うのに対し、人事労務事務は採用・勤怠・労務トラブル対応・安全衛生管理など『人』に関する業務に特化する点が違いだと考えています。中小規模の工場では兼務も多いですが、規模が大きくなるほど分業が進み、労務専任のポジションが独立して求人化される傾向があります。

Q. 未経験でも工場の人事労務事務に転職できますか

総務や庶務経験があれば、兼務型の求人からであれば未経験でも挑戦できる余地はあると考えています。独自ガイドの目安では、労働基準法の実務知識や勤怠管理ソフトの操作経験があると書類選考の通過率が上がる印象です。専任の労務ポジションはある程度の経験が求められる場合が多いです。

Q. 人事労務事務に有利な資格はありますか

必須ではありませんが、衛生管理者や社会保険労務士の学習経験がある方は書類上の説得力が増すと考えています。資格そのものより、外国人労働者対応やシフト管理など『現場を動かした経験』を具体的に語れることの方が、実際の選考では評価されやすい印象です。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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